当該画面は、霊験譚に則さず、その内容を象徴的に絵画化したものである。
 画面登場人物は二者。画面右方、驚きの様相を呈して立ち止まる年老いた女性と、女性が右手で持つ同一の杖の端を右手で担ぎ、左手で布の袋を持つ若い男性である。
 前帯を締めて羽織を羽織った白髪の女性は、霊験譚の記述によれば、眼の不自由な横瀬の兵衛の母親である。画面左方の男性は女性の息子であり、霊験譚の表題に掲げられている横瀬の兵衛である。この両者が、画面中央に並べて配される。
 兵衛の視線は、顔を上げる母親の眼前に淡く描かれている星に注がれている。霊験譚の記述によれば、この星は、兵衛が出会った老僧に授けられた『観音経』の文言を唱えた結果、明け方に観音堂の内陣から飛び出したものである。
 霊験譚中では、星に遭遇したのは参籠中の観音堂内部でのことであると推測することができるが、この画面では二者共に歩みを中途で止めた姿で表現されている。
廣重美術館蔵

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