画面を構成するのは、花を入れた桶を左手に持つ年長の女性と、黒牛に乗る若い女性、そして二匹の蝶である。
 画面右方、桜に似た手向け花を携えているところから、墓参に赴くとおぼしき女性は、霊験譚中に表れる花薗城主である左衛門督の長臣の妻であり、肩みあげした振袖姿で、牛の手綱を右手に握る女性は、彼女の娘であると考えられる。娘の髪飾りや着物は帯を除いて、秩父第三十二番に登場する豊嶋権守の娘のものに類似する。そして、娘が腰掛ける牛は、霊験譚の表題に掲げられる花薗左衛門督の長臣の生まれ変わりである。
 二人の女性は、同じく画面左上端を仰ぎ見ている。彼女たちの視線の先には、二匹の蝶が描かれている。この他に画面中に蝶が現れるものとして、西国第二十七番が挙げられる。当該霊験譚と西国第二十七番とは、話中登場人物の死という要素が共通している。
 霊験譚の記述によれば、生前の悪業の結果として、女性たちの夫であり父である花薗左衛門督の長臣は、子牛に生まれ変わったとある。牛は自らの身の上と観音の功徳に関して妻子に語り、その後に死んだと記されていること等から、画面は彼女たちが牛と共に墓へ向かう場面を絵画化したものであると考えられる。
廣重美術館蔵

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