画面を構成するのは、坐禅を組む僧形の男性と、その周囲に配された雉、蟹、小鳥である。
 切り株の上の獣皮の敷物、すなわち引敷(ひきしき)の上に眼を閉じて坐する禅僧は、霊験譚の表題に掲げられる禅客である。また鳥たちは、訪れる人もない草庵の有様を示している。同時に、鳥たちが彼の側まで近付いていることから、彼が深い禅定(ぜんじょう)に入っていることをも推測することができる。
 画面中央をこの禅僧が占めており、彼の頭上・右下・左下と取り囲む形で、小鳥と雉と蟹が周囲に配されている。また国立国会図書館本では、彼の頭の周りに頭光(ずこう)が淡く描かれていることが確認できる。
 当該画面は、次の二点を除いて、霊験譚の記述にほぼ準じている。
 先ず一点目の相違は、彼が禅定に入っている場所である。話中では禅僧は草庵で過ごしているとの記述があるが、画面中では屋外として描かれている。
 また二点目は、一株の荻の下にあったという短冊である。画面中では、茂る荻の下に、一匹の蟹が和歌をしたためた懐紙、もしくは色紙を捧げ持つ形で表されている。
 当該画面は、禅僧が一首の和歌を耳にすることによって、覚りを得る場面が描かれているのである。
廣重美術館蔵

(C) 2001 International Research Center for Japanese Studies, Kyoto, Japan. All rights reserved