この画面を構成するのは、右手で短冊を捧げ持つ男性と、中空に浮かぶ霊気の上に立つ僧形の男性の二者である。
 硯箱を前にして手を付き、頭を垂れる男性は、霊験譚の表題に掲げられる本間孫八である。僧形の男性は、霊験譚の記述によれば観音の化身であり、手甲・脚絆を着け、杖を突く旅装の姿で表現される。この両者が、画面左上端と右下端を結ぶ対角線上に配されている。
 扁額部分と画面部分は、僧の頭光(ずこう)によって関連付けられている。廣重美術館本では、頭光は扁額の額縁部の手前に描かれるが、国立国会図書館本では、同じく手前に描かれながらも、頭光から額縁が透けて見えるように表現されるという相違がある。また、頭光は上部に赤くぼかしが入っている。円形の光の表現は、西国第十五番、秩父第六番、秩父第二十番、秩父第三十四番にも見られるが、これらにはぼかしの手法は用いられていない。
 蓮が活けられる花瓶は、唐獅子を象った獅子耳が付いている。また中央に「卍」が印されているが、これは秩父第二番に現れるものとは異なり、左旋(させん)の卍である。
 当該画面は、孫八が僧の正体を悟り、彼に和歌を捧げる場面が絵画化されている。画面手前の孫八に対して、前机(まえづくえ)の上方に描かれた僧は小さく描かれる。これは正体を顕して去りゆく僧と孫八の存在する空間が既に異なっていることを、同一の画面に描くための手法であると考えられる。
廣重美術館蔵

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