画面を構成するのは、柄杓を持った右手を高く掲げ、左手で着物の裾を絡げた男性と、男性に踏み付けられた順礼姿の女性である。
 画面左方、倒れた女性の胸元を下駄で踏み付けている男性は、表題に掲げられる荒木丹下である。彼は、大振りな格子文様の着物の両袖を二の腕まで捲り上げ、前歯で唇を噛みしめ、腰には刀を差した荒々しい姿で表現される。
 また画面右下方、丹下の左の足首に手を掛けて止めようとする若い女性は、赤い根掛け(ねがけ)も解け、着物の裾も乱れている。彼女は首に順礼札を掛けるが、坂東第十九番にも同様の順礼札を掛けた男性の姿が認められる。また、女性の髪飾りは、西国第四番の幼い光明皇后のものに似る。彼女は霊験譚の記述によれば、のちに彼を改心させる契機となった人物である。しかし、話中には順礼者の性別等に関する記載はない。
 見得(みえ)を切るような丹下の視線は、画面右端に置かれた「奉巡秩父三十三番場」の墨書のある笈(おい)へと注がれている。
 塀際の桜花は、当該画面中の季節が春であることを暗示させるが、霊験譚の記述の中にはそれを指示するものはない。
 当該画面は、丹下の家の前での出来事を描くものである。
廣重美術館蔵

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