当該画面は、霊験譚に則さず、その内容を象徴的に絵画化したものである。
 画面に登場する人物は三名。
 画面手前の右方、岩に腰掛けて、右手にきせる、左手に提煙草入(さげたばこいれ)を持つ女性と、また奥左方、脇指(わきざし)を差し、手甲・脚絆を着けた旅装束で川を渡る男性、そして彼の背に負われた幼児である。白い手拭いで頭部を被った女性は、手にしたきせるで一服している。彼女の視線は、画面左方の男性と幼児へと注がれている。前髪唐子(まえがみからこ)の幼児を背負った男性は、着物の裾を絡げて、川の左岸へ渡ろうとしている。
 彼ら男性・女性・幼児の三者ともに、霊験譚中に各々の名前や霊験譚との関連性は明記されていない。彼ら三者が親子と考えるならば、幼児がハレ着を着ていることから、霊験譚に表れる「子持石」の力によって授けられた子供を連れて観音に詣でる途中、もしくは詣でた帰途という場面も推測することが可能である。
 画面中央を占める水の流れは、画面右上端から左下端に向かって、数段の段差を付けて、滝のように描かれている。この流れは、以前は実際に境内に滝が在ったことと関連して、画面中に描かれている可能性もあると思われる。
廣重美術館蔵

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