画面を構成するのは、左手に釣燈籠を掲げ持ち、右手に数珠を持つ僧形の男性と、花を献じる年老いた女性の二者である。
 画面奥、左上方に描かれる男性は、岩窟に籠もる大棚禅師である。また画面手前、右下方の女性は、霊験譚の記述によれば、悪念によって鬼形と化した老婆である。この両者が、画面左上端と右下端を結ぶ対角線上に配されている。
 霊験譚の表題に掲げられる大棚禅師は、衣に袈裟を掛けた姿で大きく描かれている。一方、老婆は跪いて背を丸めた姿で表現され、禅師よりも一回り小さく描かれる。彼女の右脇に置かれているのが、霊験譚中で布施された竹杖である。画面の中央を占めるのは、禅師が手にする釣燈籠と、老婆が捧げる菊とおぼしき花である。
 燈籠に記されている「まんじ」は、一般的には「左旋」(させん)(卍)であるが、仏教では当該画面に現れる「右旋」(うせん)()が用いられる。しかし、西国第三番の画面中に現れる釣燈籠、秩父第五番に描かれる花筒に記されているのは、これとは逆の左旋である。当該画面の燈籠は「法灯」を意味し、鬼女となった老婆に法を教示することを意図すると考えられる。
 この老婆は、西国第二十九番に現れる羅刹国(らせつこく)の鬼女や秩父第二十五番に現れる奥野の鬼女の姿形に見えるような、凶悪な表情・仕草では描かれてはいない。それでも頭部の角や口元の牙、花を捧げ持つ手の爪に、鬼としての表現を窺い見ることができる。
廣重美術館蔵

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