当該画面は、時間的空間的な異なりがある二つの画面を、同時に描く手法をとるものである。
 この画面を構成するのは、錫杖(しゃくじょう)を右手に持った男性と、人頭鳥身の女性である。男性は、霊験譚の表題に掲げられる性空上人の弟子、幻通比丘である。また女性の顔を持つ鳥は、秩父の地を性空上人に示すために遣わされた霊鳥である。霊鳥の尾羽が額縁部の上に掛かっていることから、霊鳥は扁額部分及び画面よりも手前に描かれていると推測することができる。
 画面左下方には、頭巾を被り、手甲・脚絆を着けた幻通比丘が、左手をかざして空を見上げる姿が描かれている。この頭巾の形状は、西国第十七番および坂東第六番の画面中に見られるものに類似する。幻通が腰を下ろす場所についての明確な記述は霊験譚には見られないが、足許に五巻の経文をのせた笈(おい)が置かれていることから、彼が旅の途中であることが推測される。また画面中央上方に描かれた霊鳥は、霊験譚の記述によれば、観音が行基作の観音像のありかを示すために遣わしたものである。当該画面には、霊験譚中の時間の流れにおいて、先に登場した霊鳥と、後に登場する幻通が同一画面上に表現されている。
 人頭鳥身の女性の姿に描かれる霊鳥は、図像的に迦陵頻伽(かりょうびんが)を模していると考えられる。妙音の譬喩として用いられるこの想像上の生物は、別当寺の名称である妙音寺との関連を示唆している可能性もある。
廣重美術館蔵

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