秩父重忠臣(ちふしけたゞのしん)本多次郎親常(ほんだじらうちかつね)
 秩父(ちゝぶ)の重忠(しげたゞ)夢(れいむ)の告(つげ)によつて当山(たうざん)に田獵(かり)をせしに遥(はるか)の梢(こずえ)に鷲(わし)の巣(す)に篭(こも)れるを見つけて親常に命(めい)じて射(い)さしめしに其矢(や)一本(いつほん)としてあだ矢なく当(あた)るといへどもミなはね反(かへ)るがゆへ重忠ふしぎに思ひてその巣(す)を取(とり)おろさせて見けれバ巣のうちに聖観音(しやうくわんおん)の尊像(そんぞう)れい/\として在(ましま)せしかバ夢を感得(かんどく)して郷民(がうミん)にこれを拝(はい)さすれバ古(いにし)へ当山に寺院(じいん)これありて行基(ぎやうぎ)の刻(こく)せし観音(くわんおん)の像(れいぞう)ありしが承平(しやうへい)五年相馬(さうま)の将門(まさかど)の兵乱(うらん)に国中(こくちう)の神社仏閣(じんしやぶつかく)廃壊(はいゑ)に及(およ)びしと古老(こらう)の物語(ものがたり)これあれバあら有(あり)がたやふしぎや是(これ)こそその尊像にましませりといふをもて重忠(しけたゞ)いよ/\信(しん)じて急(いそ)ぎ御堂(ミだう)を建立(こんりう)してより重忠の一門(いちもん)残(のこ)らず帰依(きえ)しけれバ其(その)験(れいげん)また鏡(かゞミ)にむかふが如くなりしとぞ当山(たうざん)の奥(おく)の院(いん)に重忠の馬繋(うまつなぎ)親常(ちかつね)の矢(や)の跡(あと)なぞといふ旧跡(きうせき)あげてかぞへがたし

廣重美術館蔵

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