巫女(ミこ)の神託(しんたく)
 当寺(たうし)ハ往昔(むかし)神社(じんしや)にて大なる榊(さかき)左右(さいう)より空(そら)に枝(えだ)をつらねて恰(あたか)も楼門(ろうもん)のごとくなりしかハ神門(かうど)といひしが其(その)社(やしろ)退転(たいてん)して跡(あと)なくなりしを後年(こうねん)所(ところ)の長(おさ)里人(さとびと)を集(あつ)めて再建(さいこん)を談(だん)じけるゆへまづ神楽(かぐら)を奏(そう)しけるに巫女(ミこ)に移(うつ)りて神託(しんたく)ありけるにハ此地(このち)必(かならず)神社(しんしや)を建(たて)ることなく梵刹(ぼんせつ)を立(たて)るときハなが栄(さか)へんと告(つげ)あるによつて観音(くわんおん)の場(れいぢやう)となせしかバ告(つけ)のごとく今(いま)にいたつて利生(りしやう)あらたか也それ神(かミ)と仏(ほとけ)ハ水波(すいノ〈ママ〉[ハ])のへたちにて両部(りやうぶ)内証(ないしやう)ハ一致(いつち)にて慈悲(じひ)深重(しんぢう)の誓(ちか)ひ何(なに)をか分(わか)たんしかれバ神(かミ)を敬(うやま)ふものハ必(かならず)仏(ほとけ)を信(しん)じて利益(りやく)を蒙(かうむ)るへきもの也
 

廣重美術館蔵

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