圓比丘(ゑんびく)
 当寺(たうじ)の住僧(ぢうそう)圓比丘(ゑんびく)一夜(あるよ)月(つき)を感(かん)じていたりしにふしぎなるかなあたりの草(くさ)むらより幽然(ゆうぜん)と老婆(らうば)の姿(すがた)あらハれ出(いで)て我(われ)ハ古(いにし)へ優婆夷(うばい)なりしが貪欲(とんよく)甚重(じんぢう)の報(むくひ)によつて阿鼻獄(あびこく)に堕(だ)しそれよりさま/\に生(いき)かハり死(しに)かハれどもその業(ごう)いまだ尽(つき)ず吾(わが)子孫(しそん)にしか/\の者(もの)あれバこれを彼等(かれら)に告(つげ)て吾(わが)菩提(ぼだい)を吊(とぶら)ハせ給へ又当寺(たうじ)へやがて験(れいげん)あらたなる観音(くわんおん)の像(ぞう)をみちびけバ何卒(なにとぞ)その像(ぞう)にむかひて吾(わが)冥福(ミやうふく)をいのり悪趣(あくしゆ)を転(てん)じて楽国(らくこく)におもむかしめよといひ終(おハ)りて其侭(そのまゝ)姿(すがた)は失(うせ)ぬ圓比丘(ゑんびく)称名(せうめう)念仏(ねんぶつ)して子孫(しそん)の者(もの)へもつげて吊(とむら)ひけるに果(はた)して遠(とほ)からずに他方(たはう)より観音(くわんおん)の像(れいぞう)来(きた)りたるハかの幽魂(ゆうこん)のみちびきし者(もの)ならん今(いま)の本尊(ほんぞん)則(すなハち)是(これ)なり
 

廣重美術館蔵

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