唄念仏
 この寺の本尊は恵心僧都の作で、また、阿弥陀三尊像もある。今は昔のこととなってしまったが、兵乱がしばしばおこって、神社仏閣も廃墟となってしまった時、一人の旅の僧が来て、里人に、「この寺の詠歌は何というのですか」と聞いた。里人はとりあえず大きい声で節をつけて唄い、終わってから、「このように面白く昔は唄って順礼をしていたのです」と教えた。旅の僧は悦んで、「ああ、ありがたい。その順礼の歌は他より優れているので、忘れないでください。すぐに兵乱も鎮まって平和が戻り、永く一切衆生をことごとく成仏させる教えがおこるでしょう」と言い残して消えてしまわれたのは、観音菩薩の化身であったのである。それから間もなく平和な世の中になって栄えたのは、不思議な霊験である。

廣重美術館蔵

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