大棚禅師
 禅師は、閑寂の地を好み、近くの鬼丸という岩窟に籠もって一心に読経していた。すると、不思議なことに一人の老婆が日夜お詣りにきて、洞の中にある観音を花を捧げて拝み、果物をお供えして禅師も拝んでいくということがよくあった。そこで「あなたは、どういった方なのですか」と禅師が聞いたところ、その老婆は、涙を流して、「私は、この里のある農家の妻なのですが、嫉妬慳貪の悪念によって夜行鬼となってしまいました。その苦しみから離れる機会が得られなかったのですが、禅師がお読みになっている『観音経』の声に結縁して、そのおかげで仏果を得ることができました。そのようなわけがあって日夜参詣していたのです。なにとぞ、この地に一堂をお建てください。今日のお布施として、この竹の杖を置いておきます」と言い残して去っていった。そのようなわけで、禅師は、今の地に観音堂を建てたのであった。老婆が置いていった杖は今も宝蔵にある。禅師の名前を尊んで地名を大棚というようになったのは、不思議な因縁である。

廣重美術館蔵

(C) 2001 International Research Center for Japanese Studies, Kyoto, Japan. All rights reserved