当該譚は当寺の開基に関する縁起を記すものであり、坂東第二十三番、坂東第二十四番、坂東第二十五番と同様に観音の霊験を説くものではない。
 笈を背負って左手に杖を持つ、画面右方の僧形の男性は、諸国を遊歴して当地へ到った伝教大師である。一方の投げ頭巾を被った画面左方の男性は、霊験譚の記述によれば、熊野権現が樵夫の姿をとって顕現したものである。その姿は、西国第二十番に見られる山人に類似する。彼が右肩に担ぐ天秤棒の両端には薪が結わえられており、左手には火を点けた松明が握られている。この松明は、闇夜に伝教大師が到着したという記述に従うものである。松明の先は、画面左端へ向けられている。
 その先には、鳥居の貫(ぬき)と柱、扁額の一部が描かれている。柱の根元には藁座(わらざ)があることから、木造であることを指摘することができる。また笠木(かさぎ)や島木が描かれていないので、この鳥居の形式は明らかではないが、西国第一番に見られる熊野社の鳥居に類似している。
 当該画面は、熊野権現が伝教大師を社へ誘おうとする場面を絵画化したものである。
白木利幸氏蔵

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