この画面を構成するのは、髭を生やした穏やかな表情の男性と、彼に手を引かれる男性の二者である。彼らはいずれも旅姿で表現されている。
 画面左方の男性は、駿河国の矢作又右衛門である。彼は右手で杖を突き、着物の裾を絡げて脚絆を着け、風呂敷包みを袈裟懸けにしている。その月代(さかやき)に毛が生えているのは、長旅の末に病を得た状況を暗示するものとも考えられる。
 又右衛門の左手を取る画面右方の僧形の男性は、観音の化身である。霊験譚の記述によれば、この地で大病を患った又右衛門を当寺へ連れて来て救ったとある。従って、僧が右手で又右衛門の手を取っているのは、彼を助けるためであり、左手で指差しているのは、当寺の方向であろう。僧の背には編笠、首には袈裟文庫(けさぶんこ)とおぼしきものが掛かっている。その装束は秩父第八番に見える旅僧に類似し、頭髪や髭は坂東第二番に現れる観音の化身である船長に似る。
 この両者はともに身体を画面右側に向け、そして僧の指差す方向へ移動するように描かれている。
白木利幸氏蔵

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