この画面を構成するのは、画面左上の岩場の上で長刀(なぎなた)を振りかざす女性と、その岩場から突き落とされた若い女性の二者である。
 画面の中央を占める若い女性は、鬢(びん)や根掛け(ねがけ)を乱し、右手を上げ、左手を前へ突き出して、川へと落ちている。この女性が、霊験譚の表題に掲げられる伊香保姫である。彼女の左右の袂からは、襦袢の袖が露わになっている。霊験譚の記述から画面下方の川は、利根川の上流である吾妻川ということが判る。また水の流れは画面右上から蛇行して、右下へ向かって流れているように表現されている。
 松が生える岩の上、着物の右肩を肩脱ぎにして長刀を持つ女性は、伊香保姫の継母である。彼女の右腕と長刀の柄の一部は扁額の額縁にかかっており、彼女が扁額部より手前に描かれることが判る。この両者が、画面左上端から右下端を結ぶ対角線上に配されている。当該画面は、伊香保姫が継母に害されようとする場面を絵画化したものである。
 また、この霊験譚は推古天皇の御代の話であるが、錦絵が描かれた当時の風俗や衣裳で表現されている。これは他にも、西国第一番の和泉式部の侍女、西国第四番の光明皇后、西国第十八番の聖徳太子、秩父第十四番の石原宮内、坂東第十一番の坂上田村麻呂にも共通する点である。
法楽寺蔵

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