この画面を構成するのは、画面中央に描かれた老いた女性と若い女性、そして画面右端の障子に影を映す人物の三者である。
 着物の右肩を脱いで胸を露わにし、裾を帯に挟んで絡げる画面中央右方の女性は、霊験譚に表れる姥である。彼女の左手は黒襟に掛けられ、右手には釣天井を切り落とすための包丁が握られている。当該画面の包丁は出刃包丁のように先が尖っているが、先の尖らない菜切り包丁のように描かれている別本もある。姥の足に縋り付く若い女性は、彼女の娘である。石持(こくもち)の付いた振袖を着た娘は、制止するように右手で膕(ひかがみ)を押さえて、母の険しい視線を受けている。
 障子に映る影として表現されている画面右端の人物は、旅人として姥の家に泊まった美少年である。彼は観音の化身であり、輪郭からうかがい知ることのできる髪型も、『百番観音霊験記』において、観音が童子の姿をとる際に見られる稚児髷(ちごまげ)である。童子形の化身がこの髪型を結うことは、西国第三番、西国第二十一番、秩父第二十番、坂東第二十六番にも確認することができる。
 霊験譚の記述によれば、姥は美少年を害そうとして誤って娘を殺し、蛇身と化したとある。娘が姥を止める場面が描かれた当該画面は、必ずしも霊験譚に一致するものではないが、観音の化身を殺そうとする姥を画面の中心人物として意図したものだと考えられる。
 この霊験譚を主題として、安政二年(1855)に歌川国芳(1797〜1861)が絵馬額を描いて当寺に奉納し、好評を博した。
白木利幸氏蔵

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