この画面を構成するのは、半畳(はんじょう)の上に坐す僧形の男性と、宝珠を手にして立つ女性の二者である。彼らの視線は、画面左上端から右下端を結ぶ対角線上で交わされている。
 画面右下方、僧綱襟(そうごうえり)の付いた法衣に袈裟を着け、胸元から中啓(ちゅうけい)をのぞかせる高位の僧は、霊験譚の表題に掲げられる慈覚大師である。彼の右側に置かれた経机の上には、香炉と経巻とおぼしき三巻の巻物が載せられている。一番上に積まれた巻物の題箋には文字が記されているが、そこから経典名を読み取ることはできない。
 慈覚大師が対面するのは、長い髪を背へ垂らし、腕に領巾(ひれ)を掛けた女性である。彼女は当地の池に住む龍女である。髪飾りや髪型は、秩父第二十九番に見られる龍女のものと類似する。霊験譚の記述によれば、頭上に載せた手桶は、大師に閼伽水(あかすい)として捧げる天竺の無熱池(むねっち)の水を入れたものである。その手桶に差された紅葉の一枝が、扁額の額縁にかかることから、彼女が扁額よりも手前に描かれていることが判る。彼女は、腕釧(わんせん)を嵌めた左手に光を発する宝珠を持つ。八本の黒線で描かれた光線の間には、さらに複数の白い線が加えられている。霊験譚の中に宝珠に関する記載は見られないが、これは女性が常人ではないことを示しているものと考えられる。当該画面は、慈覚大師を敬う龍女が閼伽水を捧げるという霊験譚を絵画化したものである。
 また、画面左端には「豊国画」の銘が入るが、他の落款が赤で着色されているのに対して、当該画面の落款は龍女の帯と同色の深い青で摺られている。赤系以外に着色された例は、他に西国第二十三番のものがある。
法楽寺蔵

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