当該画面の主人公は、画面左方から放射される光に照らし出された坂上田村麻呂である。
 画面右方の田村麻呂は、籠手(こて)を付けた左手に弓を持って、尻鞘(しりざや)を付けた太刀を佩き、大鎧の上に陣羽織を羽織った姿で描かれる。虎皮の大滑(おおなめ)を掛けた黒馬の姿は、坂東第一番に見られる馬と類似している。田村麻呂と馬の視線は、画面左方の光源とおぼしき向きへと注がれている。
 霊験譚の記述によれば、この光は彼が荊棘(いばら)の岩戸を開いた際、吉見兵庫介の守り仏である観音像から放たれたものである。光明は、画面左方から右方へ向かって拡がっている。画面左端の岩場が、観音像が納められた岩窟である。画面が光明によって照らし出される構図は、西国第二十四番にも見られる。しかし当該画面とは、光が画面下部から上部に向かって拡がっているという相違がある。
 画面左下端の男性は、籠手を付けた両手と臑当て(すねあて)を付けた両足を突き上げている。この男性に関して、霊験譚は特に言及していない。太刀を背に敷いて転がる彼は田村麻呂の従者と考えられ、光明に驚いて転倒したものであろう。
 この画面は、田村麻呂が夢のお告げによって観音像を見付けた霊験譚の一場面を、絵画化したものである。
埼玉県立博物館蔵

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