当該画面は、土俵内で取り組む力士たちと行司の三者から構成されている。
 画面中央、褐色の肌に紫のまわしを締める男性は、霊験譚の表題に掲げられる金剛力士が人間の姿をとったものである。彼は、相手よりも頭一つ分以上大きく描かれている。肉色の肌に紫のまわしを締める画面左方の男性に関しては、霊験譚に直接の記述は見られないが、恐らく近郷の者であろう。彼は右足を上げ、左足で踏ん張っている。裃に袴姿の画面右方の男性に関しても同様に、特に霊験譚の言及はない。彼は右手で北斗七星を標した軍配を持ち、左手で緋房(ひぶさ)を摘んでいる。これらの出で立ちから、彼がこの取り組みの行司であると考えられる。現在の行司は烏帽子直垂(ひたたれ)姿であるが、明治四十三年(1910)以前は裃と袴を着けていたことに基づく。
 画面左端には、刀が巻き付けられた朱塗りの柱が見える。これは四本柱(しほんばしら)と呼ばれるものであり、各々青・赤・白・黒の四色の布が捲かれ、昭和二十七年(1952)まで土俵の四隅に立てられた。また柱の陰からは、力士が口許や身体を清める為に用いる力紙(ちからがみ)と手桶が覗いている。
 霊験譚によれば、神事として行われる相撲に勝つことのできない中山村の者たちが観音に祈願したところ、願いを聞き届けて門前の仁王、すなわち金剛力士が変身したとある。当該画面は、人間の力士に姿を変えた金剛力士が中山村の者として相撲を取る場面を絵画化したものである。
埼玉県立博物館蔵

(C) 2001 International Research Center for Japanese Studies, Kyoto, Japan. All rights reserved