当該画面の中央を占めるのは、霊験譚の表題に掲げられる足立藤九郎盛長である。彼は画面左上から右下に続く岩場の斜面の上で、右肩に梵鐘を担ぎ、左手で太刀の柄を握る姿で現される。霊験譚の記述によれば、龍頭(りゅうず)に宝珠が付いたこの梵鐘は、源頼朝が盛長を使者として当寺に寄進したものである。この鐘の一部は扁額にかかっており、盛長が扁額部よりも手前に描かれていることが判る。同様の梵鐘は、坂東第六番にも見られる。
 盛長は口を引き結び、右足を踏み締め、左足を前方に伸ばす体勢で描かれている。これは、見得(みえ)を意図していると思われる。また画面右下には、上半身裸の人夫風の男性が小さく登場する。豆絞りの手拭いを捻り鉢巻きにした男性は、綱を結わえた撞木(しゅもく)を左手に持ち、右手で盛長を指差している。彼が眉を八の字に歪めて視線を送るのは、画面右下隅の男性である。青白二色に染め分けられた手拭いで額を拭う男性の視線は、盛長へと注がれている。彼ら二者に関する記述は霊験譚中に見られないが、この構図から、盛長の力強さを引き立たせる対比としての役割が与えられたものだと考えられる。
 当該画面は、盛長が頼朝の使いとして洪鐘を奉納する場面を役者絵的に描いたものである。
廣重美術館蔵

(C) 2001 International Research Center for Japanese Studies, Kyoto, Japan. All rights reserved