当該画面の舞台は、小磯の浜であると考えられる。女性たちの足元、画面左下隅には白い波の頭が、画面右奥には二本の松が、画面左上方には十一羽の千鳥が描かれている。この千鳥は実際の鳥を具象化したものではなく、浜千鳥文様を飛ぶ鳥として表現している。千鳥の内、一羽は扁額の縁に二羽は扁額の内部に描かれ、画面下部から飛び出したように表現されている。
 そしてこの画面に登場するのは、手拭いで頭部を覆い、両端に桶を掛けた天秤棒を肩に担いで立つ女性と、桶の上に渡した天秤棒に腰掛ける女性の二者である。
 どちらの女性も桶に天秤棒を通し、襷掛け(たすきがけ)をしていることから、彼女たちは、霊験譚の記述にある小磯の浜で汐汲みをする女性であると言える。手拭いの端をくわえた画面左方の女性は、霊験譚の表題に掲げられる小磯の寡婦である。彼女は、水を張った二つの桶の内、画面左側の桶が九条の光線を発しているのに目をやっている。また天秤棒に腰を下ろす画面右方の女性の視線も、光明を発する桶へと注がれる。この女性は、右手を突き出し左手を引いて、驚きの様相を呈している。光線の許は描かれていないが、霊験譚の記述によれば、彼女の桶に入った聖徳太子作の聖観音像であることが判る。
 観音像が光線を発するという霊験譚は、他に坂東第十一番にも見られるが、観音像は絵画化されていない。
神奈川県立歴史博物館蔵

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