当該画面は、時間的空間的な異なりがある二つの画面を、同時に描く手法をとるものである。
 画面を構成するのは、二つ折れになった石段の途中に描かれた男性二人と、画面手前に大きく描かれた男性の三者である。扇子を右手に持つ、画面右上方の武家風の男性と、その一段下に立つ、楊枝をくわえた奴(やっこ)風の男性、そして頭巾を被った画面左方の僧形の男性である。
 大小二本の刀を腰に差す裃に袴姿の男性は、霊験譚の表題に掲げられる飯山権太夫だと考えられる。また霊験譚中に直接の記載はないが、彼の右下に描かれた人物は随行した使用人であろう。彼らが立つ石段は、その幅に多少の変化はあるものの、扁額中の石段と連続している。使用人が持つ手桶には、桜とおぼしき枝が入れられている。秩父第七番の画面中、花薗左衛門督の長臣の妻が亡夫の墓参に赴くのに際して、同様に手桶に桜の枝を差している。桜は扁額中の観音堂の周囲にも描かれており、先の石段とともに扁額部と画面中の連関を保持する要素である。
 飯山権太夫たち二者の視線は、画面左下方へと注がれている。そこに描かれているのは、腕まくりして右手を突き出し、左手を鋤の柄に載せた男性である。霊験譚の記述によれば、彼は霊鐘が失せたままであることを嘆いた「近代の住持」であると考えられよう。龍頭(りゅうず)に宝珠が付いた梵鐘が光線を発して、画面右下方の土中から顔を覗かせている。この梵鐘が、夢のお告げを受けた住持によって発掘された「飯山の隠鐘」である。
 当該画面は、当寺の伽藍を建立した飯山権太夫と、鐘を掘り起こした後代の住持を同一画面上に描いたものである。
廣重美術館蔵

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