この画面を構成するのは三者。画面上部中央から左端へ渡される板橋の上に立つ僧形の男性、画面右下方の男性と女性である。彼らの視線は、画面左上端から右下端を結ぶ対角線上に交わされている。
 馬の両脇の男女はともに、画面左上方を振り仰いで橋の上の僧へ手を上げている。足首まで水に浸してしゃがみ込む男性は、霊験譚の表題に掲げられる飯泉長者である。彼は右手を上げ、左手で馬の足を掴んでいる。この馬は、布施をするために三貫文で売られることになる痩馬である。また、画面右端の襷掛け(たすきがけ)をした女性は、彼の妻であると考えられる。彼女は右手を上げ、左手で着物の裾を絡げている。
 一方、橋の上の僧に関する霊験譚の直接の記載はない。恐らく彼は、当寺の造営のために勧進に廻った僧であろう。手甲・脚絆を着けた彼は、被った編笠を左手で押し上げ、右手で「本堂建立 勝福寺」と赤地に白で記された幟(のぼり)を持っている。画面中に幟が描かれるものに西国第十七番が挙げられるが、これには「十一面観世音」と記されている。編笠と幟は扁額部にかかっており、僧が扁額よりも手前に描かれていることが判る。
 霊験譚の記述によれば、布施する金銀がないことを嘆いた男が痩馬を売った金を奉納した功徳で観音の霊験を受け、長者として富み栄えたとある。当該画面は造営の勧進が行われていることを、のちの飯泉長者が知る場面を絵画化したものであると考えられる。
廣重美術館蔵

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