この画面を構成するのは、朱塗りの船に乗った烏帽子を被る男性と、空中に浮いた形で表現された男性の二者である。船の形状は、西国第二十二番に見える山蔭中納言の乗る船に類似する。
 笹竜胆(ささりんどう)の狩衣から太刀の冑金(かぶとがね)と鎧の籠手(こて)、草擦(くさずり)を覗かせる画面左下方の男性は、霊験譚の表題に掲げられる源頼朝である。彼が舳先(へさき)を向いて合掌する先には、右手に青竹の棹を差し、左手に日輪を付けた陣笠を持つ男性が描かれている。霊験譚の記述によれば、口許に髭を蓄えたこの禿頭の人物は、当山の本尊が船長の姿をとって現れたものであることが判る。彼の持つ棹は上部の扁額部にかかっており、彼が扁額よりも手前に描かれていることが示される。
 船長の足は、衣の着色を徐々にぼかすことで表現されている。彼は棹を差す波間から発する光線に照らし上げられているようにも、海中の光から浮かび上がったようにも見える。しかし、船長が海上に浮かんだり、棹が光を発したりする場面は、霊験譚の記述から確認することはできない。
 当該画面は、頼朝が石橋山から敗走する際、観音力によって安房国の洲崎へと舟に乗って落ち延びた場面を絵画化したものである。
廣重美術館蔵

(C) 2001 International Research Center for Japanese Studies, Kyoto, Japan. All rights reserved