画面を構成するのは、馬上で鞭を持つ右手を掲げ、左手で手綱を引く男性と、左足を上げて馬の差縄(さなわ)を両手で引く男性の二者である。馬は後ろ脚立ちになって、胸の辻総(つじふさ)を巻き上げている。
 画面中央を占めるのは、折烏帽子を被った武家の男性である。虎皮の大滑(おおなめ)を敷いた鞍に跨る彼は、その羽織袴に三つ鱗の家紋が描かれていることから、霊験譚の表題に掲げられる北条相模守時頼であることが判る。また画面左端の男性は、腰に差した柄杓に同様の紋が入っていることから、北条家の使用人だと推測することができる。鞭を振り上げて、眉と眦(まなじり)を吊り上げる形相の時頼とは対照的に、使用人とおぼしき男性は、眉間に皺を寄せた表情で表現されている。
 画面右端に描かれた石柱には、「坂東順禮第一番 大蔵山癘{寺」と記されている。この石柱と時頼の鞭は、上部の扁額よりも手前に描かれており、また時頼の袖と彼が乗る馬の臀部が石柱にかかっていることから、当該画面では時頼が最も手前に描かれていることが判る。
 寺名の入った石柱が立てられていることから、画面の舞台となっているのは当寺の門前であると考えられる。門前で馬が暴れるという構図は、観音の威力で寺の門前を通る者が落馬したという霊験譚の記述に則するものである。
神奈川県立歴史博物館蔵

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