小磯(こいそ)の寡婦(やもめ)
 当山(たうざん)の濫觴(らんじやう)ハ大宝(たいほう)二年当国(たうごく)小磯(こいそ)の浜(はま)にて寡婦(やもめ)の汐汲(しほくむ)桶子(たご)にふしぎと入(い)りし像(れいぞう)なり然(しか)れども女(をんな)ハ何(なん)の仏(ほとけ)といふも知(し)らず唯(たゞ)信心(しん/\)なしけるうち一時(あるとき)行脚(あんぎや)の僧(そう)来(きた)りたるに見(ミ)せけれバ是(これ)こそ聖徳太子(しやうとくたいし)の刻(きざミ)給ふ聖観音(しやうくわんおん)の像(ぞう)に明白(めいはく)なる事(こと)をつゞればいよ/\貴(たつとミ)て香花(かうげ)を供(くう)じ老年(らうねん)に及(およ)びておのづから我(わ)が世(よ)を去(さ)る日(ひ)をしりぬ其日(そのひ)にハ身(ミ)をきよめて汐(しほ)たれたる襷(たすき)を尊像(そんぞう)の御手(ミて)にうけて此(この)苦海(くかい)を引出(ひきいだ)して極楽摂取(ごくらくにミちびき)給へと御名(ミな)を唱(とな)へながら大往生(だいわうじやう)を遂(とげ)たる当寺(たうじ)の鎮守潮司大権観(ちんじゆてうすたいごんげん)ハ此(この)海女(あま)を祭(まつ)る所(ところ)といへり其後(そのゝち)行基(ぎやうぎ)五尺(ごしやく)余(よ)の立像(りうぞう)を刻(きざミ)て海女(あま)が感得(かんとく)の小像(せうぞう)を胎中(たいちう)に篭(こも)る今(いま)の本尊(ほんぞん)則(すなハち)是(これ)なり

神奈川県立歴史博物館蔵

(C) 2001 International Research Center for Japanese Studies, Kyoto, Japan. All rights reserved