郷士高崎氏
 高崎某は、生来が人情に厚い誠実な者で、仏教を貴んでいた。四十二歳の厄難を免れようと願っていたところ、折しも当地を訪れた行脚の僧を招いてこの旨を語ると、旅僧は応えて言った。「あなたは知らないのか。この地に役行者の霊場である白岩という所があり、そこに柳の霊木がある。これを御衣木として十一面観音像を作りあなたに与えよう。この例は、魏の道泰法師が四十二歳の厄にあたり、観音を念じたところ病死を免れ、長寿を保ったことにある」と教示して、ついに五尺余りの尊像を彫刻して高崎某に与え、名も告げずに去っていった。
 しかし、像の蓮台の裏に「行基」と印してあるのを見て、これぞ正に観音の化益であると歓喜踊躍した。そして高崎某はこの寺院開基の檀主となったので、家内安全、無病息災で、富栄えたことは不思議の霊験である。

廣重美術館蔵

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