飯泉長者
 当山の本尊は、赤栴檀(しゃくせんだん)を用いた毘首羯磨(びしゅかつま)の作である。当所の願主は弓削道鏡という。昔は今の地よりも半里余り西の千代村という所にあったが、天長七年(830)庚戌の夏、仏勅によってこの地に移られた。
 この時、人々が造営のために金銀をなげうっている様子を見て、一人の貧夫がため息をついて、「わたしは日々の糧もままならないが、施物がないとはいえ、助力をしないのは心苦しい」と、痩馬を三貫文で売り奉加したところ、翌朝、かいば桶の中にその銭があった。驚いて奉加所へ行って見ると、「さては奉納の銭が戻ったのは、観音がわたしが貧苦であるのを憐れまれたのか」と信心をさらに増した。
 その銭により馬を買戻してから、財宝が泉の湧くがごとくに富栄え、ついに国中一の長者となったので、人々は彼を三貫長者と呼んだ。
 御詠歌はこの長者の因縁によるものなので、心かけてみるべきである。

廣重美術館蔵

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